学会設立の趣意

日本安全教育学会設立の趣意

平成 11 年 12 月 13 日
日本安全教育学会会長
吉田 瑩一郎

20 世紀における科学技術の発達には目覚しいものがあり、人類の幸福実現に大きく寄与してきた。しかし、同時に様々な危険が新たに生み出され、人間の健康や安全が脅かされることも多くなって来ている。昨今のたび重なる医療ミスや薬害、食品公害等は目に余る状況にあり、殊に東海村の「臨界事故」は近年まれに見る恐るべき事件というべき出来事で、心胆を寒からしめるものであった。近代科学の最先端の分野でもある核燃料を扱う作業がバケツを使って行われていたばかりでなく、安全を配慮した作業手順や、事故発生時の対応策もなかったというのであり、人命の安全はこうまでも軽く見られるものかとただ驚くばかりである。

交通事故についても、平成 10 年の負傷者数は過去最悪記録を 28 年ぶりに更新し、死傷者数は実に 100 万人に迫っている。また、地球環境汚染の問題とともに自然災害では、近年異常気象が目立つようになり、地震や風水害等によって多くの人命が失われている。更には、幼児や児童、生徒が生活環境や学習環境の中で遭遇する事故・災害も依然として減少する兆しが見えない。長年に渡って続けられて来ている指導や対策に著しい成果がなかなか現れないのである。

しかし、様々な課題の解決に多くの人が熱意と使命感を持って忍耐強く取り組んで来ているのであり、数多くの調査や研究の成果、地道な教育実践による貴重な経験等が着実に積み重ねられていることは重視されなければならない。こうした活動や経験、成果が広く関係者の目に触れ、それぞれの分野で活用されるならば、研究活動や教育活動の発展に大きく資するものと確信するのである更には、関係各位の相互研鑚や教育実践の中から有益な教育手法や教育理論が生み出されることによって、広範・多様な研究が安全学として体系化され確立されることが期待される。また、この安全学の内容は教育実践によって生かされ、その有効性が検証されるとともに教育実践の手法の開発、発展にも寄与することになる。

すべての人が健康・安全な生活を営むことができるとともに、進んで望ましい環境の改善に資する態度、能力を習得できる手立てを構築することが、今日正に強い社会的な要請であると認識される。21 世紀を目前に控えて、本学会を設立し、社会の要請と期待に応えるべく諸課題の解決に取り組むとともに、安全優先の気風を醸成する安全文化(Safety Culture)の創造に役割を果たすことは誠に意義深いものと考える。諸先輩、諸学兄、関係各位のご理解とご賛同を得て、ここに本学会が設立されることを強く希望するものである。